すべての学校で取り組むプログラミング教育

教科横断的な学びとプログラミング

「子供たちが、成人して社会で活躍する頃には、我が国は厳しい挑戦の時代を迎えている」

これは、学習指導要領(平成29年告示)解説総則編の冒頭の文章です。学習指導要領の告示から数年後の現在(2023年)はどうでしょう。生産年齢人口の減少に伴う社会の変化、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック、温暖化から地球沸騰化の時代と言われる異常気象、生成型AIの飛躍的な進化など、これまで誰も予想していない出来事、想定を越える出来事が立て続けに押し寄せています。まさに、予測困難な時代(VUCA時代)が到来しています。つまり、「子どもたちが成人して社会で活躍する頃」ではなく、まさに【今】が、「厳しい挑戦の時代」なのです。それは我が国に限ったことではありません。 世界中の人々が、厳しい挑戦の時代を共に生きています。

さて、地球温暖化や環境問題は、気象学や海洋学などの理科・理学の範囲と考えがちです。ノーベル賞を受賞した真鍋さんは、地球の気候を物理法則に基づいてシミュレーションをし、「気候モデル」を開発しています。理学だけでなく、データ活用(数学)やプログラミングを駆使して課題を解決した成果が評価されました。環境問題が、理科の教科書だけでなく、地歴公民、家庭、保健、外国語などにも取り上げられているように、現代の課題は様々な分野・教科の知恵を結集しないと解決できないのです。このように、単一教科では解決できない現代的な課題を解決し、wellbeingな世界を目指すためには、教科や分野を横断した学びやSTEAM教育が不可欠になります。

STEAMとは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics)の5つの領域の統合を重視しています。プログラミングは、技術と強く関連しますが、その他の領域との親和性が高く、統合を促進する役割を担うことが多い領域です。VASQUETZ et al.(2013)は、統合の度合いを示しています。(1)から(3)の順に統合が強くなります。

  1. 「共通の主題について、教科・領域ごとに概念とスキルを学習する」
    社会科と理科で、別々に環境問題を学んだり、理科で惑星を学び、図工で惑星のモビールを作るなど
  2. 「複数の教科・領域が深く結びつくことで概念とスキルを学習する」
    算数で習った表や計算を社会科の学習に活かしたり、理科でものづくりをするなど
  3. 「実世界の課題やプロジェクトに取り組むことで、複数の教科・領域の知識やスキルを活用しながら学習する」
    家庭や地域の問題を多様な教科の力で解決する。人に優しい学校を目指し、プログラミングとものづくりをするなど

学習指導要領に記載された、5年生算数「図形」、6年生理科「電気の働き」におけるプログラミングは、2に関連します。本報の後半の「PBL 」は、3に関連します。

つくば市のプログラミング学習とカリマネ

つくば市では、学習指導要領の改訂に先駆け、プログラミング学習を推進してきました。手引きにある実践に加え、新たな教科や単元で先進的な実践が、数多く報告されています。子供の将来を第一に考え、新しい教育を柔軟かつ積極的に取り入れている先生方に敬意を表します。一方で、プログラミングに取り組む子供の姿から、湧き出る好奇心、探究心に驚かされた先生も多いようです。
成功の秘訣はカリキュラム・マネジメントにあると考えます。つくば市ではコアカリキュラムというモデルプログラムを策定しています。あくまでモデルです。学校によっては、計画と学習者や教師の実態が離れていることもあったようです。子供も教師も、学年進行に伴い加速度的にプログラミングスキルが向上しました。更には、プログラミング環境(プログラミング言語やセンサーボード)も年々変化しました。先生方は、それらの課題に迅速に対応してきました、つまり、カリキュラム・マネージメント(カリマネ)を常に意識し、機能させてきた成果です。
教育委員会もカリキュラム・マネージメントに取り組んできました。プログラミングの手引きが毎年バージョンアップするはその一つです。今回の改定は、教科の系統性や連続性も考慮したものになっています。毎年発行している実践事例集も次年度の取り組みの参考になります。市内全体が、同一のカリキュラムであることを生かし、プログラミングの成果を電子掲示板やプレゼンテーションコンテストで交流することも一般的になりました。他者との交流は、児童・生徒の意欲と創造性を高めると共に、先生方の授業改善の手がかりになっています。

preconプレゼンテーションコンテストで
自分の作成したゲームについて発表する児童

第2期つくば市プログラミング学習 for PBL

全国の学校と比べ、つくば市のプログラミング学習は、一歩も二歩も先に進んでいます。「決められた活動の中でプログラミングをする」だけでなく、「プログラミングを使って学びを深める・広げる」にステップアップしましょう。
小学校プログラミング教育の手引(第二版)(2018) によれば、プログラミング教育のねらいは以下の三点とされます。

  • ねらいA:「プログラミング的思考」を育む。
  • ねらいB:プログラムの働きやよさ、情報社会がコンピュータ等の情報技術によって支えられていることなどに気付くことができるようにするとともに、コンピュータ等を上手に活用して身近な問題を解決したり、よりよい社会を築いたりしようとする態度を育む。
  • ねらいC:各教科等の内容を指導する中で実施する場合には、各教科等での学びをより確実なものとする。

この3 点は、これまでもプログラミング学習の中で育成してきました。しかし、教科の学びに偏る事も多く、「身近な問題を解決したり、よりよい社会を築いたり」する活動にまで至らなかったことも事実です。そこで今回の手引き書の改訂では、つくばスタイル科でのPBL(問題解決学習)における手法の一つとして、プログラミング学習が取り上げられています。
前章で取り上げたように、これからの子供たちは、読解力、対話力、データ活用力、批判的思考力、プロジェクトデザイン力など様々な力を育成する必要があります。問題解決の過程の中に、それらの力
を活用する場面が埋め込まれているのがPBL なのです。そこにプログラミング学習が組み込まれました。STEM(Science、 Technology、 Engineering and Mathematics) 教育や、芸術・教養(Art)を入れたSTEAM 教育が注目されていることはご存じだと思います。プログラミングを入れたことで、つくば市のつくばスタイル科はSTEAM 教育としても機能することになります。


以下では、PBL のポイントをまとめます。

  1. 本物の課題を解決する
    SDGs に代表される現代社会の課題は、私たちの身近にあるものばかりです。生きて働く力を育てるには、本物の課題を探究し、解決することが大切です。本物だからこそ、対話が深まります。現実の世界でもそうであるように、様々な問題を解決するツールの一つとしてプログラミングが役に立つはずです。子供の豊かな発想が期待できます。
  2. 複数の教科の力を統合する
    読解力、対話力、データ活用力、批判的思考力、プロジェクトデザイン力、プログラミング力などPBLで育成される力は、教科学習とも密接につながります。教科学習を出発点にしたり、教科横断型の学習を設計したりすることで、多様な能力を育成することができます。STEAM教育とは、各分野を総合的・統合的に学習する方法です。教科の力を結集して問題を解決させましょう。
  3. 問題解決をマネージメントする
    PBL は一連の問題解決の活動です。解決法を考え実施する、表現法を選択し他者に伝えるなど、問題解決の各過程を自らが考え決定します。問題解決の過程全体を見通したマネージメントも不可欠です。また、グループワークをマネージする( 協働学習を調整する) 力も必要になるでしょう。まさに、PBL を「全体をシステムとしてデザインする力」が必要になります。すぐには身につかない能力です。教師の段階的な支援が必要になります。

プログラミングエキスパートの育成

プログラミング的思考やプログラミングの基本スキルの習得は、誰しもが身につけるべき能力です。その中から、AI を作る人材やイノベーションをおこす人材も生まれることでしょう。プログラミングのエキスパートを育てる取り組みも大切になります。Scratch3.0 はAI の機能を取り組むこともできます。無料でスマホアプリを作成できるソフトもあります。Python など高度な言語も簡単にアクセスできます。これまでも小型Linux サーバ(Raspberry Pi) によるサーバ構築などを行ってきました。関心のある子供には、様々なレベルの環境を用意(紹介)し、応援しましょう。
プログラミングは、入力された(決められた)情報だけにしか反応しないなど、特別支援児の特性に合致する場面があります。そう考えると、高いプログラミング的思考を持つ特別支援児も沢山いるはずです。それらの子供にも適切な環境を整える必要があります。幸いGIGA スクール構想により、一人一台の端末が配備されます。その目的は、「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、子供たち一人一人に公正に個別最適化され、資質・能力を一層確実に育成できる」ことです。一人一台端末の配備により、個々の子供の関心や能力に応じた環境を提供できる可能性が高まりました。

indインデペンデンスサーバーデイで、サーバ構築に挑戦

おわりに

つくば市は、子供たちの発想力、探究心を育てる手段の一つとしてプログラミングを推進しています。子供も教師も、決められた枠にとらわれるのでなく、自由な発想でプログラミング学習を進めてほしいものです。楽しみながら前向きに課題を解決するマインドは、現代的な課題を粘り強く解決することにも役立つでしょう。

玉川大学教職大学院 教授 久保田 善彦

  • 【ID】P-26
  • 【更新日】2024年1月26日
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